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コンタクトの常識

盲視は、特別なことに思われるかもしれませんが、人間が持っている能力としてみると、「武術の眼」にも通じるものがあるのではないかと思います。
ものを見るときには、二つの眼の向きをそろえ、遠方や近方に眼を動かします。 まず、目標に眼を向けたとき、内向きか外向きかのクセを持っています。
これは眼位と呼ばれています。 歩くときの外股や内股のクセと考えてもらうとわかりやすいかもしれません。
斜視(内斜視、外斜視)という言葉を耳にしたことがある人も多いと思いますが、これは、この内股か外股かの量が大きくなったものといえます。 斜視というと特別に聞こえますが、眼位はだれもが多かれ少なかれ、どちらかの傾向を持っています。
その量によって、斜位と呼ぶか斜視と呼ぶかの差が出てくるというふうに私は思っています。 また、普段は二つの眼がそろっているのに、心や体調に変化が起こることによって斜視になる場合もあります。
そのほか、事故によって突然、二つの眼の向きがそろわなくなることもあります二つの眼の向きについては、眼位のほかに、輯轄と閑散という運動があります。 ものを見るときには、眼をそろえ、遠くや近く、右や左と視線を移す動きも入ってきます。
このとき、遠くから近くへ両眼を向ける運動を輔鞍といい、反対に、近くから遠くへ向ける運動を閑散といいます。 運動ですから、そこには筋力(轄鞍力・開散力)が介在します。
そのため、眼位と同じように、筋肉の強さ、運動の得意・不得意といった傾向を、だれもが持っています。 強い寄り眼を続けた結果、身体から悲鳴が!!近くを見る、すなわち輯鞍運動の際に異常に強い寄り眼を続け、ある時点から眼が斜視の状態になり、ものが二つに見えたり、揺れて見えたりする症状が出てくるようになったEさんの例です。

無力感や脱力感におそわれるなど、眼以外のさまざまな症状も出はじめたため、診察を受け、入院して治療を受けていました。 多少落ち着いて仕事に復帰しましたが、見え方にまだ不都合があって仕事がしづらく、内斜視でものが二つに見えることを治すため、一カ月後に手術をすることになりました。
コンタクトレンズとメガネを併用しているので、念のためにと、手術の前にメガネのチェックに来られました。 調べてみると、左右とも立派な近視です。
レンズ度数は合っており、本人は遠方も近くもはっきり見えているとのことでした。 たしかによく見えてはいるのですが、遠くを見るときも近くを見るときも大きなストレスがかかっていました。
特に近くを見るときのストレスは強烈なものでした。 Eさんは性格が凡帳面で、一生懸命頑張るタイプです。
部下をたくさんかかえる仕事をしていたので、小さなことまでしっかり見届け、細やかなチェックを怠らない毎日です。 半日はパソコンと向き合い、デスクワークに励みます。
常にものがはっきりくっきり見えていないとイライラするため、近視が進むとただちによく見えるメガネやコンタクトレンズにつくり替えていたそうです。 だいたい30歳を過ぎると、近くにピントを合わせる眼の調節力が弱ってくるのですが、仕事への集中力が強く、はっきり見ようとする意識が強すぎる人は、眼の筋肉に力を込めてピントを無理やり合わせてしまうのです。
それでも合いにくくなってくると、寄り眼を強くしてピント合わせをするようになります。 ピント合わせをする眼の筋肉(毛様体)が近くを見るために緊張すると、輯鞍(寄り眼)運動が起こります。
眼の機能には、両眼が寄ってくるとピントは近くに合うという相互の関係があります。 Eさんはこの眼の機能を使い、異常に強い寄り眼をして近くの作業をしていたのです。

この状態を疑似体験するなら、少し極端ですが、いちばん近くの文字目印を何時間も見つめ続けているようなものです。
Eさんは寄り眼を続けるあまり、内斜視(眼が内側を向いているタイプの斜視)になってしまったようです。
両眼で見るとものが二つに見えますが、片眼ずつでは一つに見えます。 検査の途中でEさんに、眼にストレスのかからない楽な見方を体感してもらうため、近くを見ても筋肉に負担のかからないレンズをかけて文字を見てもらいました。
「二つに見える現象はどうですか?」。
「ほとんど二つに見えません」。
「では、私の顔を見てください」。 「鼻とか眼の部分を見ようとしないで、そして眼を動かさないで、身体全体を見るようにしながら、私の表情を観察してください」。
「むずかしいです。どうしても部分を見たくなります」。
「それは長い間の自分のクセです。広く見るのと絞って見るのと、両方を自由に操れるといいんですが、もっと眺める気持ちで見てください。おでこにシワを寄せて眼を見開こうとしないで」。
このやりとりを何度も繰り返します。
「そうすると、何か頼りなくて、見ている気がしないのですが」。
「でも、表情は読み取れませんか?」。
「はい、わかります」。
「では、その感じで新聞を見てください」。
「はい、全然二つに見えませんし、よく見えます」。
「では、今までのメガネとかけ比べてみてください」。
「ああ、今までのメガネだと、眼に力を込めないと見えません。しんどいです。」
「見ているものが二つになったりもします。楽に見える違いがわかります。でも、さっきまでは本当にわかりませんでした」。
この状態を疑似体験するなら、両サイドにある企を同時に見ながら真ん中の文字を見るような見方です。

Eさんのそれまでの見方は、一つひとつの目標に眼を向けて確認しないと気が済まないような見方でした。
文字を見ているときは、両サイドの企は眼に入っていない状態です。 それが、視野の中に同時に入り、眺めるような見方に変化していきます。
Eさんには、「頭が勝った見方」のことや、両眼視機能と心のつながりを説明しました。 そのうえで、デスクワークではトリートメントレンズを用い、眼の使い方は、ぼやけて見えていても、自分が必要な情報をしっかりキャッチできる使い方をするようにアドバイスしました。
一カ月後、体調もよく、手術も必要がなくなったとの連絡が入りました。 半年後に宛に来られたときには、とても元気そうで目も輝いていました。
頭脳と身体にズレが起こり、筋肉の限界を超えたとき、身体が反乱を起こして病気につながるのだと思います。 それに仕事やプライベートの悩みなど、思いつめて考える時期が重なると、顕著に症状が表れてきます。

不安や悩みがあると眼は寄ってくる傾向があります。 また、寄り眼をすることで、さらに不安や悩みで考え込んでしまいがちです。
このようなとき、呼吸にも「吸」、つまり吸い込みが多くなります。 どのような健康法でも「吐く」ことの大切さを教えていますが、「吐く」ことによってよけいなストレスを防ぎ、リラックスした状態が基本であることを教えてくれます。
人間にとって、眼が行動の入口であると前述しました。 眼に映った映像から入る情報が脳に伝達され、そこから身体に指令が発せられてはじめて行動に結びつくわけです。

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